大阪堺の街の職人がどんなこだわりを持って刃物を仕上げているのか、文献やインタビューを元にご紹介しております。
是非、ご一読頂き、一般の刃物と職人の技術とこだわりでつくりあげた堺打刃物の違いを感じて頂ければ幸いです。
なぜ工場が薄暗くなっているかわかりますか?火の色をハッキリ見るためですよ。熟練の職人になると、この火の色を見れば温度が分かるんです。今900度だとか950度だとか。
この火の温度は、夏場や冬場、晴れの日や雪の日によって大きく変わるんです。その時々にあわせて火の色を見て包丁を叩いていくんです。
この温度を見間違えると、良い包丁は出来ません。一見普通に見える包丁も鍛造の火を間違えると、ダメなんです。
そんな時は、刃付けに出しませんが、もし間違えて出してしまうと、刃付け屋さんや問屋さんから、腕が落ちたといわれてしまいます。
親方の言葉として忘れられないものがあります。研ぎの仕事は「ひずみ」をとることが大事であるが、親方は、「包丁と話が出来るようになったら、ちゃんと研ぎが出来る」といっていました。
「ひずみ」があるとき、包丁の方から、きつく一回叩いてくれ、だとか、軽く三回叩いてくれとか、こうしてほしいと、
包丁から話しかけてくるものであり、そうすると失敗して、また裏から叩き直す必要がないのです。その「ひずんだ包丁」に。正しく答えるのが研ぎの職人なのです。
また、研ぎが出来ているかどうかは、包丁を見なくてもわかるります。研いでいる音を聞くだけで、どの程度の仕事が出来ているか、わかるのです。
柄付けは和包丁の最終工程です。
実際にもいてもらうと分かるのですが、包丁の柄のお尻を木槌で叩いて入れる、独特の方法で行われます。
また、中子を焼入れているのは柄の穴の焼き目と接着させるためなんです。穴はV字型になって普通に考えれば抜けそうなんですが、冷えると木と水牛が収縮して中子を締め付けるんやと思います。
包丁は一本ずつ微妙に違いますから、柄もそれに合わせなければなりません。
包丁の重心や、手に持った感覚などを調整しながら、一本一本使い手にあわせた形で柄を付けています。
銘切りというのは二文字くらいであれば、それさえ覚えれば、それほど難しくないと思います。しかし、お客様からの名前を入れたり、ローマ字など個別の注文が入ると難しくなります。
銘切りは、失敗は許されない。刻んだものを消すことが出来ないからです。出来上がった包丁の最期の仕上げです。
銘は、その包丁の顔であり、シンボルです。包丁は使えば切れるものですが、銘は、顔と同じなのだと思っています。
したがって、銘は、第一印象が大切であり、ずっと心に残る物であります。
見た瞬間に美しいという感動が求められるものなのです。